閉じる

いい競争で、いいサービスを。いい競争で、いいサービスを。

国際スピード郵便(EMS)
の問題点

日本産の果物や魚などが海外でも注目され、日本と海外での荷物の量が増えている中、
不正薬物等の国内流入も拡大しています。
国際物流の在り方を考えなおさなければならない時期がきています。

EMSとは?

EMS郵便物は、通常郵便物又は小包郵便物の対象となる通信文、書類又は物品を航空路によって最も優先的に運送し、速達すると認められる方法で配達し、かつ、その引受け及び配達について記録する郵便物です。(国際郵便約款第38条1項)

1国際スピード郵便(EMS)をユニバーサルサービスとする扱いは、諸外国では一般的ではありません。

国際スピード郵便(EMS)は、多くの諸外国でユニバーサルサービスから除外されていますが、日本ではユニバーサルサービスと位置づけられています。そのため航空機からの荷卸ろし時における優先取扱いや通関・検疫等における一般の貨物とは異なる簡易な取扱いなど、さまざまな優遇措置の適用を受けており、民間事業者に比べ運用面・コスト面で圧倒的に優位な状況にあります。

そもそも、EMSはExpress Mail Serviceの略称で、レターなどの郵便物を国際間で迅速に輸送するためのサービスでした。しかし、市場環境が変化する中、輸送物の主体は「紙」から「物」へ、利用者は「個人」から「法人」へと移行しています。つまり、現在の国際スピード郵便(EMS)は民間の国際小口輸送サービス(荷物を運ぶサービス)と競合するサービスとなっています。このように競合関係にあるにもかかわらず、日本の国際スピード郵便(EMS)に優遇措置が適用され続けているため、国際社会からも問題視されています。

私たちは、2007年の郵政民営化に伴う郵便法の改正により「ゆうパック」が郵便事業から貨物運送事業に移管されたのと同様に、国際スピード郵便(EMS)についても郵便事業ではなく貨物運送事業の対象とし、ユニバーサルサービスから除外することで、国際小口貨物市場でのイコール・フッティングを確保すべきであると考えます。

国際スピード郵便(EMS)をユニバーサルサービスとする扱いは、諸外国では一般的ではありません。国際スピード郵便(EMS)をユニバーサルサービスとする扱いは、諸外国では一般的ではありません。

2利用実態が所轄官庁の見解と合っていません。

2009年に総務省郵政行政部国際企画室が作成した、「EMSの現状と課題」によると、国際スピード郵便(EMS)は主に個人向けのサービスとして、民間事業者の提供するサービスは商用貨物を対象としたサービスであり、市場の棲み分けがなされているとの見解が示されています。しかし日本郵便は、2013年から、生鮮食品等を輸送できる「クールEMS」を発売。さらに、インターネットの普及により差出人と受取人が明確な越境ECが拡大し、中国への通販商品の輸送手段として国際スピード郵便(EMS)が約9割を占めていると一部メディアで報道されるなど、その対象は明らかに商業貨物に拡大・増加しており、民間事業者の提供する国際小口輸送サービスと競合する状況となっています。

2016年10月、私たちは総務省に対して、国際スピード郵便(EMS)は商業貨物と個人利用の貨物のどちらの利用が多いのか質問しましたが、総務省の回答は、「利用内訳を承知する立場にない」というものでした。総務省は所轄官庁として、国際スピード郵便(EMS)の利用実態をしっかりと調査・把握した上で国際的な貨物市場のイコール・フッティングを確保するために、国際スピード郵便(EMS)を郵便事業ではなく貨物運送事業の対象とし、ユニバーサルサービスから除外するなど、現状の見直しを図るべきです。

個人利用から商業利用へ変化個人利用から商業利用へ変化

3通関手続きの優遇に関する政府の答弁は合理性がありません。

2016年6月、第190回国会の審議において、国際スピード郵便(EMS)に関し民間事業者の提供するサービスと競合しているにもかかわらず、通関手続きの優遇措置を受けていることについての問題提起がなされました。これに対し政府は、「郵便物については、差出人から一方的に送られてくることが多く、受取人に適正な申告が期待できないこと等から、同法(注:関税法)により、課税価格が20万円を超えるもの等を除き、簡易な通関手続が適用されている」「『国際宅配便』については、差出人から受取人までの運送を一貫して引き受けている運送事業者が貨物の内容を把握し、輸出入者を代理して適正に申告を行うことが期待できることから、このような簡易な通関手続が適用されていない」と答弁しています。

しかし、この答弁は国際スピード郵便(EMS)の通関手続きを優遇する理由としてまったく合理性を欠いています。

・差出人から一方的に送られるからこそ、保安上の観点からも内容物等をより正確に把握するために全ての貨物を検査すべきであり、簡易な通関手続きを維持するべきではない。

・越境ECや生鮮食品の輸送など「貨物」の輸送に利用される国際スピード郵便(EMS)やクールEMSについては、差出人から受取人までの運送を一貫して引き受ける「国際宅配便」と違いはまったくないため、ユニバーサルサービスとして優遇されるべきではない。
と私たちは考えます。

4簡易な通関手続きが、不正薬物などの流入を助長しています。

民間事業者に適用される通関手続きは、全ての貨物の品名や数量等を自ら申告し検査を受ける「申告納税方式」です。しかし、国際スピード郵便(EMS)には、課税価格が20万円を超えるもの等を除き申告が不要であり、税関職員が必要と判断した貨物についてのみ検査を行う、「賦課課税方式」が適用されています。

近年、国際スピード郵便(EMS)を利用した覚醒剤や大麻などの不正薬物等の密輸入が増加しており、不正薬物の密輸入の摘発件数(平成27年)は前年比の10倍(全体の91%)と拡大しています。※1

また、コピー商品などの知的財産権侵害物品の輸入差止実績(平成28年上半期)をみると、国際スピード郵便(EMS)を含む国際郵便物を利用した輸送手段が全体の93%を占めていることが分かります。※2

このように国際スピード郵便(EMS)等の国際郵便物を利用した不正な商品の輸入が圧倒的多数を占めている背景には、簡易な通関手続きによって、不正な商品の輸入が助長されている実態があるものと考えます。2013年12月12日に関税・外国為替等審議会から提出された答申書においても「国際郵便物は社会悪物品等の密輸手段としての利用の拡大が懸念されており、課税事務の効率化により、国際郵便物のセキュリティ対策の強化を図ることも課題となっている」と懸念が示されています。※3

このように、国際スピード郵便(EMS)に対する通関手続き上の優遇措置は、日本社会の安心安全を脅かし、国際的な信用を低下させかねないものであるため、民間事業者と同様の「申告納税方式」を適用すべきです。

不正薬物の密輸形態別摘発件数不正薬物の密輸形態別摘発件数

5未知の細菌や病原菌が国内に持ち込まれる危険があります。

輸入貨物の検疫手続においても、国際スピード郵便(EMS)には民間事業者と異なる取扱いがなされています。

民間事業者の場合、検査は必ず空港建屋内で受けなければなりません。これに対し国際スピード郵便(EMS)については、空港建屋外に運ばれた上で、国際郵便交換局において検査を受けることが認められています。レターなどの郵便物であれば問題はありませんが、生鮮食品や植物などが検疫検査前に空港建屋外に持ち出されることは、未知の細菌や病原菌が国内に持ち込まれ、安心安全な国民生活が脅かされるリスクをはらんでおり、諸外国からも衛生上の危険が指摘されています。

国際スピード郵便(EMS)も民間と同様に空港建屋内で検査を実施し、防疫を徹底すべきです。

検疫の違い検疫の違い

社会の動き

クロネコヤマトの取り組み